桜 貝

泣き上手でみんな冬木に騙される
あやとりの糸は鬱色黄葉期
鴉来て骨組みかえるふと不安
大根でもふいてみるか十二月八日
ななかまどの落下すなわち手風琴
破滅型の作家風花に歩けない
冬銀河爪の先まで無頼かな
はだれ雪泣きたくなるジャズばかり
ひょっとして死後への切符桜貝
春昼や紙風船に母を入れ
おぼろ夜の尖りたるもの欲しかりし
延命装置にそそのかされて木の芽どき
母が手を振るのは菜の花あたりかも
花の闇耳の奥までかなしかり
車座にありて見つけし花の鬱
レモンかじる母の百面相を見たくて
花種の眠る晴れ間を共にする
豌豆の煮えて一粒ずつの海
じゃがいもの花揺れ空が逃げていく
蛍火に頭大きし子等ばかり
こぼれたる水またこぼれ原爆忌
マニュキュアの指ふいており終戦日
氷菓子戦後がいつか崩れゆく
秋光をまといナイフの一人劇
アコーディオンがゆっくり秋を連れて来た
星月夜絵のないトランプばかり引く
一つくらい騙されてもよい鰯雲
胡桃割る父よ小さくならないで

1992年(平成4年) 氷原帯投句作品
 

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