木 綿 針

白鳥を迎えるための皿を買う
紅葉の間合いかすかな寝息して
立冬や食パンにある裏表
とりあえずコーヒー一杯深雪晴
たましいは丸いと思う夕端居
残る月毀さぬようにパンをかむ
柿かじるそこそこにある不安
陶器展ざくろ眠たい目をもてり
口の端にのせたばかりに寒波来る
風花の落ちたところで髪を切る
葡萄ふくむぽつんと父のカバンある
雪の朝一行のような電車くる
一人称ばかりふくらむ夜寒かな
囀りを育てる闇の深さかな
蜆汁マラソン日和かもしれぬ
店頭に深き睡魔の春にしん
通りすがりのぶんだけ沈丁匂いけり
天地は清掃中です花の前
ドスンと来た夏蝶についてゆく
たましいに触れないように枇杷をむく  
半日をたちまち染める茄子の花
万緑やいま放心の木綿針
中年の狂気もすこしそばの花
ついてきた岬どまりの八月野
爪を切る二百十日の窓近く
菊日和四肢ゆっくりと解体す
藤の実や愉快犯ならもう落ちる
秋晴れの卵黄律儀に盛り上がる

2001年(平成13年) 氷原帯投句作品
 

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