リンデンバウム

湯冷めして肩の辺りに女かな
ぼぉっといる時間とわたしに細雪
大根と肉をぶつ切り日が暮れた
神の留守ちりちり踊る削り節
フーテンの寅も並びし年の市
年の夜や一人の娘ありにけり
お元日音という音みんな消え
雪催いワインの栓がくっと泣く
この先が追分通り木の芽風
芹の水通しあの世の話など
眼鏡屋に締め出されたる春愁い
選ばれている文旦のあかりかな
物わかりよすぎる男ふきのとう
花辛夷引越し荷物は小さめに
四肢伸ばす畳一枚八月忌
幾何学的とも家族的とも代田かな
夏椿泣いた先から楽になる
言い訳の一つはきっと白つつじ
崩れるが美徳今夜の冷奴
河口まで来て出合いたる白日傘
リンデンバウム龍之介の頬杖
東京がトーキョーになる終戦日
大あくびしてから動く夏山河
天上天下唯我独尊秋桜
話そらさぬよう松葉牡丹ふまぬよう   
ハンカチの四隅秋思のはじめとは
秋の訃が一行の詩が降りてくる
グッバイ マスクの声が大股に

2009年(平成21年) 氷原帯投句作品
 

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