花 の 夜
     吉村昭著・「総員起シ」を読んで

手を伸ばすところに母が初の夢
故郷は海の底です芹なずな
雪しまく母住む国に潜望鏡
男くさく男寝る棚野分潮
一月や潜航訓練異常なし
甲板に寝ころんで見る寒の星
波の花あいつはいつも笑っていた
「艦首上ル」しばれる声があちこちに  
雪降るや未だ兵士が船底に
立ったまま屍となる花の夜
女まだ知らぬと遺書に雪積もる
寒晴れや絹の装束あるでなし
ダイヤモンドダスト散華百二生存二
たましいのゆきどころなし雪ばんば
桜一枝海の柩に置いてくる

2013年(平成25年) 氷原帯 企画同人 特別作品
 

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