貝 の 名

美しき名前重たしみずすまし
白粉花みんなやさしい声出して
玉葱のシャキシャキすこし死の話    
バイブルの一本調子花杏子
白桃のそれだけではや傷の中
積まれたる本の直角今日白露
貝の名を尋ねて秋の日暮れかな
すれ違った気がして私も秋蝶も
菊月の眠りは生絲の匂いする
廃船の記憶の中の夕野分
蜻蛉の後先になる私生活
先頭の蜻蛉力を抜いている
家ごとの柱家ごとの草の花
松茸を採る話だけ聞かされて
一輪の響きやさしい蓼の花
純潔のかたち風船蔓かな
どうしても解けぬ数式萩の風
高音がよく効いている曼珠沙華
てのひらに入る故郷夕紅葉
長葱と空を大きく二つ折り

2017年(平成29年) 第51回 北海道俳句協会賞 準賞受賞作品
 

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