遠 雷

ちちははの声あらばこそ初鏡
退屈な時間三日の雪降る夜
今生の願いだなんて雪女郎
東京へ出ていくカバン芹の水
生きるとは遺されること花筏
海峡の話を少し花は葉に
葉桜になってしまってから告知
新緑をもらい告知を遠ざける
海図から飛び立っていく初の蝶
遠雷や夢は今でも中二階
八月がゆっくり落ちてインク壺
掌の中のシネマ半券林火の忌
利き腕があやしくなって梅雨葎
挨拶の歯切れよろしき酔芙蓉
捨てた日もある故郷の花エンジュ    
ひらがなのような母なり式部の実
鬼やんまきっとあの日も海を見に
一行の訃がついてくる萩の道
秋の湯や独り暮らしのごと入る
原稿の桝目を抜けて月の秋

2012年(平成24年) 第46回 北海道俳句協会賞 応募作品
 

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