青 み か ん

アスパラの切口臓器をノックする
青みかん鏡の裏に雨走る
愛という言葉ひらひら冬の椅子
雪吊りを残して急ぐ火の側に
大根煮る葬曲いつか消えており
名画座を出て雪町の水母かな
根雪きて真ん中に座すぬくさかな
冬の川闇より出でて闇に消ゆ
徳利の首洗い雪の話する
烏賊裂いて耳ぴらぴらと反る寒夜
氷柱折る少年いっとき伐採夫
おでん酒来し方には触れずおく
風花や猫の尻尾がよく動く
小春日に白衣干される研究室
胡麻炒って悪女めかしておりにけり   
憂い顔上手になりて桃の酒
春の猫他人行儀にすれ違う
春昼の郵便バイクことっと止る
背表紙のうすき埃や花いまだ
新学期肩カバンから出てゆけり
花冷えやバリュームの胃連れ歩く
夏の月みんな美化してしまいけり
黄たんぽぽ嫁姑に割って入り
明易し水の匂いと種袋
紫陽花の恋情知るや兄逝きぬ
夕焼けを焦がし清楚な母となり
末席に先ず身づくろう秋の葬
つとすべる卵今日から寒卵

1989年(平成元年) 氷原帯投句作品
 

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