猫 じ ゃ ら し

鉛筆をけずる立夏のたしなみに
滝の声近づいてくる縄文期
行って帰ったつもりの手足三尺寝    
実酸漿指さだまらぬ男下駄
沙羅の花つま先たちて抜く聖書
含羞のかたちの一つ茄子の棘
落ちていし胡桃のありて仰ぎけり
聞かされてかなし谷中の生姜かな
青芒月の匂いの通り過ぐ
桃にあるちから絶筆の一文字
はじめから葬に列なし秋時雨
たましいの遊んでおりし月見草
白桔梗帯のあたりで箸を割る
萩の奥仏陀の国にある月日
時折は人に溺れよ杜鵑草
鳥渡る声のつまりしことなども
水神と老女がよぎる星月夜
文脈をたどるふうせんかずらかな
あとがきに行きつくまでの秋湿り
風景を抜けてきました猫じゃらし

2010年(平成22年) 第44回 北海道俳句協会賞 応募作品
 

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